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東京高等裁判所 平成5年(ネ)2296号 判決

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人は、控訴人らに対し、別紙会員権目録記載の個人平日会員権につき、いずれも控訴人らへの名義書換手続をせよ。

三、訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一、控訴の趣旨

主文と同旨

第二、事案の概要

一、本件は、控訴人らが被控訴人経営のゴルフクラブの平日会員権を買い受けたとして、それぞれ被控訴人に対しその名義書換手続をするよう求めた事案である。被控訴人は平日会員権は譲渡が禁止されているとして名義書換を拒否したところ、原審は、被控訴人の主張を採用して、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却する旨の判決をしたので、これを不服として控訴人らは控訴を提起した。

二、争いのない事実等

1. 被控訴人は、千葉県東葛飾郡沼南町所在の藤ケ谷カントリークラブ(以下「本件クラブ」という。)というゴルフ場を経営する株式会社である。

2. 別紙会員権目録記載の各旧会員(以下、旧会員を総称するときは「旧会員ら」といい、個別の旧会員をさすときは、例えば「旧会員一」という。)は、同目録記載の各年月日に、被控訴人に対しそれぞれ入会保証金四〇万円と所定の登録料を支払い、被控訴人と本件クラブへの入会契約を締結して、それぞれ本件クラブの個人の平日会員権(以下、旧会員らの平日会員権を「本件平日会員権」という。)を取得した。

3. 控訴人村上大介は平成三年一〇月一日旧会員一から代金一〇〇〇万円で、同須田利夫は同年三月四日旧会員二から代金一一〇〇万円で、同竹内慎吾は同月二日旧会員三から代金一一〇〇万円で、同生出克彦は同月一日旧会員四から代金一〇〇〇万円で、同山本高司は同年二月二八日旧会員五から代金一二〇〇万円で、同山下睦之は同日旧会員六から代金一二〇〇万円で、それぞれ本件平日会員権を売買により取得した(甲三の1ないし6、証人村上詰諟、同竹内五郎)。

4. 旧会員らそれぞれは、被控訴人に対し、次のとおりの日に到達した内容証明郵便で右3のとおり本件平日会員権を譲渡した旨通知した。

旧会員一、平成三年一〇月一九日

旧会員二、同月一六日

旧会員三、同月一七日

旧会員四、同年一一月一日

旧会員五、同日

旧会員六、同年一〇月一七日

三、争点

本件平日会員権の譲渡性を否定することが許されるか。

四、証拠〈略〉

第三、争点に対する判断

一、本件平日会員権は、第二の一の2のとおり、旧会員らがそれぞれ入会保証金四〇万円を支払って取得したものであるが、昭和四四、五年当時の本件クラブの規約及び施行細則(甲一、乙一)によれば、被控訴人の会員には、名誉会員、特別会員、正会員、平日会員、家族会員の五種があるところ(規約四条)、平日会員は、所定の手続により入会したものであり(同七条)、施設の利用が日曜、祭日を除く平日に限られており(同九条)、退会の際には、入会保証金の返還を受けることができるが(同一六条)、会員総会の構成員ではなく(同二五条参照)、会員は理事会の定めた入会金、年会費その他諸費用を負担するものとする(同一〇条)と規定されているところからすると、本件平日会員権を含む本件クラブの平日会員権の性質は、右規約の諸規定に従い、本件クラブのゴルフ場施設を平日に限り優先的に利用する権利及び退会時の入会保証金返還請求権並びに年会費その他諸費用を負担する義務を包括する権利義務関係(法律上の地位)ということができるのであるが、義務の面に較べて権利の面が強く、それ自身財産的性格を有し得ると考えられることに鑑みると、右の平日会員権は、性質上譲渡が許されないものとは到底解し得ず、したがって、譲渡を禁止する特約があると認められない限り、これを有する者はこれを他の者に譲渡することができるものであり、譲渡があったときには、その譲渡につき譲渡人が被控訴人に通知する等の手続を取ることにより、被控訴人としては譲渡の結果を認め、譲受人を平日会員権を有する者として取り扱わなければならないものというべきである。

二、そこでまず、右譲渡禁止につき明示的な特約の存在が認められるかについて検討する。

旧会員らが本件平日会員権を取得した昭和四四、五年当時の本件クラブの規約、施行細則(甲一、乙一)はもとより、募集要領等(乙二、甲一〇)、入会に伴い交付された証券(甲二の1ないし6)のどこをみても、平日会員権の譲渡禁止が直接に明記されているところはない。

被控訴人は、被控訴人と旧会員らとの間で個別に本件平日会員権の譲渡禁止の合意をした旨主張をしているかに窺われるが、右主張事実を認めるに足る証拠はない。これに関し、証人新倉英一は、当時、平日会員の入会申込者等から譲渡が可能か否かの問い合わせがあったときには、平日会員権の譲渡は禁止されていると説明していたとの趣旨の供述をしているところ、同証人の証言、弁論の全趣旨によると、当時の本件クラブの会員募集は必ずしも容易ではなかったことが認められ、これによると、被控訴人が当時平日会員権を譲渡禁止とすること、少なくとも、それを明示することは難しかったものと窺われ、右供述のような説明を実際にしたということには疑問がないではないが、仮に右供述を肯認しても、同証人は、旧会員らの入会の際に旧会員らから右のような問い合わせがあったかについては記憶がないと述べているのであるから、同証人の証言によっては、被控訴人と旧会員らとの間に、本件平日会員権につき譲渡禁止の特約が明示的に成立したことを認めるに足りないことは明らかである。

そして、他に右譲渡禁止の特約が明示的に成立したことを認めるに足りる証拠はない。

三、次に、右譲渡禁止につき黙示的な特約の存在が認められるかにつき検討する。

1. 昭和四四、五年当時の本件クラブの規約、施行細則(甲一、乙一)によれば、正会員は、被控訴人の株主であって所定の手続により入会したものであり(規約六条)、会員総会の構成員として議決権を有し(同二五条)、理事会の定めた入会金、年会費その他諸費用を負担するものとする(同一〇条)と規定され、これを受けた施行細則において、会員及びビジターの負担金は別途定める(施行細則八条)と規定され、その別表において正会員の名義書換料が定められているが、同表には平日会員の名義書換料は定められていない。

しかし、規約一〇条によれば、会員は理事会の定めた諸費用を負担する義務があると規定しているのであるから、平日会員の名義書換について、費用等を徴収する必要があるのであれば、その額を理事会で定めて、それを平日会員に負担させることにすれば足りると解されるのであって、当時の本件クラブの施行細則の別表に、正会員の名義書換料が定められているのに、平日会員の名義書換料が規定されていないことから、直ちに平日会員の譲渡が禁止され、名義書換が許されないとしているとみるのは早計というべきである。

2. 乙第二号証の募集要項は、正会員、平日会員、家族会員を募集するために、昭和四四年以前に被控訴人が作成したものであり(証人新倉英一、弁論の全趣旨)、これには、正会員の入会金を一〇〇万円、平日会員の入会保証金四〇万円、登録料一〇万円(合計、入会金五〇万円)とし、正会員は、被控訴人の「株式を所有することになり、この株式の譲渡は自由です。なお、平日会員……の入会保証金は、据置期間が全くありません。従って退会の際は入会保証金をお返しいたします。」と記載され、甲第一〇号証の会員募集要領は、平日会員、家族会員を募集するために、被控訴人が乙二より後の昭和四五年頃に作成したものであるが(同証人)、これには、平日会員の入会保証金四〇万円、登録料二〇万円(合計、入会金六〇万円)とし、「入会保証金は、据置期間が全くありません。従って退会の際は入会保証金を即時お返しいたします。」と記載されている。

右記載によれば、正会員権に譲渡性があることは明記されているが、それは正会員が同時に株主でもあり、株式の譲渡は原則として自由である半面、退会の際にも入会金の返還は全くされないことから、正会員権の財産としての利点のみを特に取り上げて掲載したに過ぎないとも解されるうえ、平日会員については入会保証金の据置期間がなく、退会の際にはすぐに入会保証金が返還される旨を明記して、これも平日会員権の財産としての利点のみを掲載したに止まり、その譲渡性については単に言及しなかったに過ぎないと解することもできるから、正会員権の譲渡性が明記されていることから、直ちにその反対解釈として平日会員権については譲渡禁止が黙示的に記載されていると解することはできないというべきである。

3. 旧会員らが入会に際し被控訴人から交付を受けた証券(甲二の1ないし6)の表面には、被控訴人が平日会員の入会保証金として四〇万円を預った旨明記したうえ、「上記金額については退会時貴殿より請求があった場合本証と引換えに御渡しいたします」と記載され、その裏面は全くの白紙である。

右証券の表面の記載は、右2に述べた募集要項等と同様、平日会員権の譲渡性については言及していないし、また、右証券の裏面には、譲渡欄等が全く設けられていないのであるが、それだからといって、このことが当然に平日会員権の譲渡を禁止している趣旨であると解するわけにはいかない。

4. 被控訴人は、昭和四四、五年当時、平日会員権については、一般的にこれを譲渡禁止とする旨の取引慣行があったとも主張し、それを前提に、本件平日会員権の譲渡性を否定しようとするが、弁論の全趣旨によると、当時、平日会員権の譲渡性を認容していたゴルフクラブも相当多数あったことが認められることに照せば、主張のような取引慣行が成立していたとは到底いい難い。

5. そして、他に右譲渡禁止の特約が黙示的に成立したことを認めるに足りる事情を認定するだけの証拠はない。

四、証人新倉英一の証言及び弁論の全趣旨によると、被控訴人は、これまで、本件クラブの平日会員権の譲渡に伴う名義書換について(更には相続による名義書換についても)一切応じていないことが認められるが、このことだけでは、本件平日会員権の譲渡性を否定する根拠とはならない。なぜなら、本件クラブの平日会員権は、特約なき限り譲渡性を否定できないことは既に述べたとおりであるが、これまで述べたところからすると、その特約を認めるに足りるだけの証拠はないから、被控訴人が右のように名義書換に応じていないことは、被控訴人が平日会員権には譲渡性がないものと誤解しているか、あるいは、不当に平日会員権の譲渡性を否定しようとしているものとみざるを得ないからである。

なお、仮に旧会員らが平日会員としての入会申込みをした当時、被控訴人が平日会員権は譲渡性を有しないものとして募集していたものとしても、そのことを規約等にも明示していないこと、それを外部から推知するに足りる事情があるともいえないことは叙上の説示に明らかであるから、右の点は、被控訴人の内心の意図に止まり、それを根拠に本件平日会員権の譲渡性を否定できないことはいうまでもない。

五、乙第三、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年九月二九日本件クラブの定時会員総会が開催され、同総会において、平日会員権は当初より譲渡不能であるが、これを規約に明記するためという改正の趣旨のもとに、従来、退会の際入会保証金を返還する旨のみを規定していた規約一六条を「平日会員……の権利は譲渡できないものとし、退会の際は入会保証金を返還する。」と改めたうえ、これを新規約の一七条としたこと、昭和五〇年三月の被控訴人の会員募集要綱やそれ以後の入会者に交付する本件クラブの平日会員の証券(その例、乙一五四ないし一六五)には、平日会員権が譲渡不能である旨が明記されていることが認められる。

しかしながら、本件クラブの平日会員権が旧会員らが入会した当時から譲渡不能であったと認めることができないことは、既に述べたところから明らかであり、平日会員である旧会員らは、本件クラブの会員総会の構成員ではないし、右の定時総会に参加し、あるいは、右の規約改正について関与したことを認めるに足りる証拠はないほか、平日会員権の譲渡性を変更するにつき特別な合理的理由が存在することについて主張も立証もないことからすると、右規約の改正等は、それによって、本件クラブの平日会員権をその時から初めて譲渡不能のものにすることにしたといわなくてはならず、それ以後募集される平日会員権については譲渡禁止とすることが許容されるにしても、その前に生じている本件平日会員権を含む平日会員権の譲渡性に変更を加える効力はないものと解さざるを得ない。

六、以上によると、本件平日会員権の譲渡性を否定する根拠はなく、この譲渡が行われ、旧会員らから被控訴人に対しその旨の通知があった以上、それによって、本件クラブの運営に支障を生ずるなど特段の事情につき主張立証のない本件においては、被控訴人は、本件平日会員権の譲渡を肯認し、その譲受人である控訴人らを平日会員と認める趣旨において、本件平日会員権の名義を旧会員らから控訴人らに変更する名義書換手続をすべきものと解するのが相当である。

第四、結論

よって、控訴人らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきであり、これと結論を異にする原判決は不当であるから取消しを免れない。

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